「緑のたぬきより赤きつね」
これが殺害された小保方晴子博士の残したダイイング・メッセージだった。
「これ、本当にダイイング・メッセージなんですかね。ただ『緑のたぬきより赤いきつねの方が美味しい』って言いたかっただけなんじゃないですか?」
「死に瀕した人がそんなことを書き残しますかねぇ? それにメッセージにあるのは『赤いきつね』じゃなくて『赤きつね』ですよ、気になりませんか?」
「赤きつね、英語で言えばRed Foxか…」
「そのFをSに変えると、どうなりますか?」
「Red Soxですが…」
「Red Soxの本拠地は…?」
「ボストンですけど…」
「ボストンと言えば…?」
「ハーバード大学!」
「ハーバード大学と言えば…?」
「.バカンティ!!」
「しかし、もしダイイング・メッセージがバカンティを意味しているとすれば、犯人は特定されません。君も知っての通り、バカンティは二人います。それに『緑のたぬき』の意味が分かりません」
「確かに…」
「では次に『緑のたぬき』について考えましょう。まず『緑』は英語で言うとGreenです。『緑のたぬき』は食べ物ですが、君は『グリーン』のつく食べ物と言えば何を思い浮かべますか?」
「グリーンのつく食べ物、グリーン、グリーン…、あっ、グリーンピース」
「そのPeasはPeaの複数形です。Peaを日本語に訳すと…?」
「知りません」
「エンドウ豆ですよ」
「そうですか。で、そのエンドウ豆がどうかしたんですか?」
「君は小保方さんを批判するブログがあったのを覚えていますか?」
「ええと、確か、『kahoの日記』とか…」
「その『kaho』ですが、本名の『たかほ』から『た』を抜いたものらしいですね」
「『た』を抜いた……ああぁ『たぬき』だ!」
「そして、その方の苗字は…?」
「『エンドウ』です、やりましたね。ダイイング・メッセージの謎が解けましたね」
「いえ、まだです。もしダイイング・メッセージが遠藤高帆を意味しているなら、今度は『赤きつね』の意味が分かりません。本来、それは必要のないものです」
「ああ、そうか」
「そこで、わたしはこう考えました。小保方さんが最初に伝えたかったのは『赤きつね』が必要ないということではないかと。そのためには『赤いきつね』ではダメで『赤きつね』でなければならないんです」
「えぇ? どういうことですか。僕にはさっぱりわかりません」
「いいですか。『赤きつね』が必要ないならば『緑たぬき』も必要ない、小保方さんはそう言いたかったのではないでしょうか」
「『緑たぬき』も必要ない……??」
「そこでダイイング・メッセージから必要のないものを取り去ってみましょう。いいですか。『緑のたぬきより赤きつね』から『緑』『たぬき』『赤きつね』を取り除くと残るのは…」
「あああぁぁ!! 『の』『より』だぁ!!」
「そう、犯人は野依理事長だったんです」
「杉下さんて、すごいですね。こんな複雑なメッセージを解くことができるなんて」
「簡単です。野依理事長はさき程、自首されました。犯人がわかったから、メッセージの謎が解けたのです。というより、これ、本当にダイイング・メッセージなんでしょうかねぇ」