ビールの涙
ビールは怒っている!
という話である。
へぇ~、ビールでも怒るの、ビールも偉くなったもんだねぇ
などとビールを見下しているあなた。
ビールが怒るわけねぇだろ!!
怒っているのは私である。
物言わぬビールに代って私があなたにビールの気持ちを伝えよう。
あなたが居酒屋の暖簾をくぐるとしよう。
カウンターの奥から、着物のよく似合う、ちょっと生活に疲れた感じの色気が漂う、歳の頃なら30代後半の女将さんが
「いらっしゃいませ、お飲み物は何にしましょう」
と尋ねる。
そこで、あなたは、こう答えるはずだ。
「とりあえず、ビール」
なんで、「ビール」の前に「とりあえず」が付くんですか?
「いきなり何を飲むかと尋ねられると即答はできません。わたくしは日本酒も好きだし、焼酎のお湯割りも悪くない。でも明日は朝が早いから軽くチューハイにしておくべきではないか。いや、まてワインを忘れていないか。
ああ、女将さんはこんなわたくしを見て、なんて優柔不断な男だこと、なんて軽蔑してないだろうか、いやしている、絶対に軽蔑している。
そうだ、時間稼ぎをしよう。その間に何を飲むかをじっくり考えよう。」
という強迫観念(というか妄想)に取り憑かれたあなたが発したことば、それが
「とりあえず、ビール」
なのである。だから「ビール」の前に「とりあえず」が付くわけなのだ。
これは、あまりにもビールに失礼な話ではないか。
ビールはあなたに飲まれている、なのに、あなたは他の酒のことを考えている。
それでもビールは黙って飲まれている。
ただ、ときどき栓を開けると泡があふれ出すことがある。
あれは悔しさ、切なさ、やるせなさに耐え切れなくなったビールの涙である。
なんと健気なビールではないか。
そんなビールに対して「とりあえず」だと!?
ふざけんじゃねえ!!
ちなみに「汗をかいた後のビールはうまいね」
これも禁句だから。ビールはいつ飲んでもうまい、ビールに感謝、ビール万歳。
これからはそういう態度でビールと付き合うこと、わかりました?
とりあえず、今回はこんな話です………すまん。