シュレディンガーの狸

このブログがなぜ"シュレディンガーの狸"と名付けられたのか、それは誰も知らない。

2015-11-06から1日間の記事一覧

杜春子(下)

意識を取り戻した杜春子は、静に部屋を抜け出して、ビルの階段を下りて行きました。 そこは年中暗く、氷のような冷たい隙間風がぴゅうぴゅう吹いているのです。春子はその風に吹かれながら、やがて『知らんねん』というプレートの係ったった立派な部屋の前へ…

杜春子(中)

「お前は何を考えているのだ。」 馬鹿の老人は、三度、杜春子の前へ来て、同じことを問いかけました。 「私ですか。私は今夜寝る所もないので、どうしようかと思っているのです。」 「そうか。それは可哀そうだな。ではおれが…」 老人がここまで言いかけると…

杜春子(上)

或春の日暮です。 ハーバード大学の西の門の下に、ぼんやり空を仰いでいる、一人の若い女性がありました。 女性は名は杜春子 (モリ ハルコ)といって、元は早稲田大学の大学院生でしたが、今はハーバード大学に留学し、その日の暮しにも困る位、憐な身分にな…