シュレディンガーの狸

このブログがなぜ"シュレディンガーの狸"と名付けられたのか、それは誰も知らない。

数学界の学とみ子「私は絶対、間違えない」

というタイトルは望月新一さんに失礼ですね。

望月新一さんは16歳でプリンストン大学へ進学、23歳で博士号を取得、その後、日本へ帰国して京都大学に助手として採用され、32歳で教授に就任という、まさにエリート中のエリート数学者です。

そのエリート数学者である望月さんがABC予想を証明したと主張したのが2012年、今年になっても未だ証明されたのか、そうでないのか結論が出ていません。白でも黒でもない世界で望月さんは困る、そして多くの数学者は望月さんの証明が理解できずに困る、という状況なでのです。望月さんは2012年にその論文を学術誌に投稿したのですが、現在に至るも「査読中」ということらしいのです。そのような中で望月さんはブログで「内部告発」を行いました。

では、実際の論文の査読状況はどうなっているのでしょうか。まず、2012年8月、IUTeichの連続論文4編を某数学雑誌に投稿し、それ以降、査読報告書は一回(=2016年5月=ちょうど論文の投稿から3年8ヶ月程経過した時点)しか受け取っていません。その査読報告書(英語・約5頁)は(公開するつもりはありませんが)IUTeichの連続論文を絶賛した上で、「論文の出版を非常に強く薦める」内容となっています。

ところで本来なら査読報告書の内容は「論文の掲載を薦める」となるべきではないでしょうか。その場合、薦められているのは、論文が投稿された学術誌の編集者です。想像するに、実際の査読報告書の内容は、論文を絶賛した上で「しかし、この論文を雑誌に掲載すべきか否か、査読者には判断できないので、論文著者の責任で出版することを強く薦める」という内容だったのではないでしょうか。

このように「論文の出版を非常に強く薦める」極めて肯定的な内容の査読報告書が著者に送られ、その後、3年8ヶ月もの間、何の説明等もなく、論文が事実上放置される(のと、著者からすれば区別が付かない)状況に置かれる、といったような事例に遭遇したことがありません。

そうなると望月さんとしては、別の学術誌に投稿するという手もあるわけですが、いかんせん、望月さんはその論文をネットで公開したのです。その結果「ABC予想を証明したと主張する論文」としてマスコミでも取り上げられ、その筋の数学者は皆、論文を読んでいるわけで、そしてそのうちの大部分は理解できないでいる、そして、少数の数学者は証明されていないと理解している、という状況に望月さんは置かれているのです。だからどの学術誌に投稿しようと、掲載される見込みはないことを望月さんは理解しているはずです。

そして「海外ではIUTeichについては、数学的には全く出鱈目な内容の指摘による様々な深刻な誤解が発生して」いると主張したうえで、望月さんは次のように主張します。

この手の誤解に対しては雑誌は如何にも不思議で、「学問の健全な発展」という、学問の世界において本来最も優先されるべき観点から言えば、極めて非建設的な立場を取っています。具体的には、雑誌の関係者はこれらの誤解の背後にある数学的に出鱈目な内容については、その数学的な出鱈目さを、査読報告書のような公式の文書という形で確認しない姿勢を取りながらも、実際には(その全体的な態度、物言い等から判断するに)十分に理解し、認識していることは間違いありません。

要するに望月さんは、雑誌の関係者は誤解の背後にある出鱈目を公式には確認しないが、その出鱈目を認識していると考えているわけです。

では、なぜ雑誌の関係者は、そのような「極めて非建設的な立場」を取るのでしょうか。望月さんの考えは以下のようになります。

海外の数学界のとある勢力による、私の研究に対する「激しい敵意」については、恐れを成してしまっている(=平たくいうと、「ビビってしまっている」)のでしょうか、毅然とした姿勢を取ることを完全に拒み、事実上、論文を放置し「機能不全もしくは機能停止」のような、如何にも残念(=情けない?)状態に陥っているように見受けられます。

「とある勢力」が望月さんの論文を潰そうとしている、どこかで聞いたことのある展開になってきました。

 「何も言えない・何も分からない・何もできない」といったような趣旨の発言をただ連発するだけで、論文を巡っては何がどうかなっているのか、誰にもさっぱり分からない底なしの「ブラックホール状態」を常態化させ、意味不明な「玉虫色天国」をただひたすらに永久的に維持・運営しようとしているようにしか見受けられません。

「何も言えない・何も分からない・何もできない」という言葉はSTAP派の研究者が置かれている(と学とみ子さんが主著する)状況と似ています。つまりABC予想は証明されたと理解している数学者は「とある勢力」を恐れて、何も言えないと望月さんは主張しているわけです。ただ望月さんは「余りにも奇妙で非建設的な『ブラックホール状態』の糸を引いている『黒幕』の正体については私は全く情報を持っておりません」のだそうで、ひょっとしたらそのような「黒幕」は存在しないのかもしれません。STAP論文を潰した「黒幕」が存在しないように。

ところで以前は「数学者達は重大なエラーを指摘出来ないから、望月の議論について問題があると主張することを非常に嫌っている」という状況だったのが、「望月の4つの論文の3番目の中の"系3.12"の証明の終わり近くの論法の一行が根本的に欠陥があると主張する」数学者が現れ、状況は変わったのだそうです。

しかし実験科学と違って、数学の理論は公理と定義と論理だけで展開されるのに、それが正しいのか、そうでないのかが10年近くもたって決着がつかないのは、私には理解しがたいです。しかしある意味、実験科学の場合、STAP細胞のように再現ができなければ、それでおしまいなわけで、簡単に決着がつく。新しい数学の理論には新しい数学の哲学が要求されるので、なかなか決着がつかないのかもしれません。いずれにせよ、望月さんの「内部告発」が、自身の正しさを世間に訴えるのに役に立っているとは、私には思えません。

もちろん私には望月さんが正しいのか、間違っているのかの判断などできようはずもありません。素人の私にできることは、望月さんの理論を素人向けに解説した本を読むことぐらいです。というわけで本日、この本をアマゾンに注文しました。

宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃