シュレディンガーの狸

このブログがなぜ"シュレディンガーの狸"と名付けられたのか、それは誰も知らない。

TCR-β鎖遺伝子再編成試験

いきなり難しいタイトルで読者は戸惑っているだろうが、一番戸惑っているのは他ならぬこの私であるから心配することはない。

学とみ子は、NHKによるTCRの説明は間違っているとの主張をズーとしてきています。

と学とみ子さんは自身のブログのコメント欄で仰っているのですが、実は大昔に私もこの問題を取り上げて記事を書いたことがあった。その記事で私は次のように書いている。

Nature論文には「キメラマウスの細胞についてTCR再構成について調べた」と書かれている。それだけで十分だ、少なくともNature の査読者はそう思った、と笹井さんは言っているわけである。

これはNHKが笹井さんにキメラマウスの細胞でもTCR再構成が観察されたのか否かを笹井さんに問い合わせたときの笹井さんの返答である。すでにSTAP幹細胞においてはTCR再構成が観察されないことは理研から公表されていたので、「Nスペ」がTCR再構成を問題にしたのは、キメラマウスについてだけだったと記憶している(TCR再構成そのものについての説明があったのかどうかは記憶にない)。

STAP論文には「キメラマウスの細胞についてTCR再構成について調べた」としか書いてないと私はSTAP論文を読まずに(たぶん「Nスペ」の言うことを鵜呑みにしたのだと思う)書いた。

そこで今回、STAP論文には実際、どのように書いてあるのかを当たることにした。ところが私は英語が読めない。しかし幸いにして片瀬久美子さんのブログに「(参考)STAP細胞論文まとめ−Nature Article論文 」という記事があったので、そこから引用さてていただくことにした。

まずSTAP細胞TCR再構成については次のように記されている。

・Tcrb (T細胞受容体遺伝子)のゲノム再構成が、FACS精製したCD45+ 細胞とCD90+CD45+T細胞由来のOct4-GFP+細胞で観察されたことは、少なくとも系統に関係付けられたT細胞の寄与があることを示している。Fig. 1i, ED. 2e-g

TCR再構成は「T細胞由来のOct4-GFP+細胞で観察された」と明確に記述されている。問題はSTAP細胞から作られたキメラマウスの細胞についてである。この点については次のように記述されている。

TCR-β鎖遺伝子再編成試験

ゲノムDNAをSTAP細胞と、CD45+細胞由来のSTAP細胞から作ったキメラマウスの尾の先端から抽出
    ↓
DNA50ngを使い、次のプライマーを用いて(D)J 再編成領域をPCR
Dβ2:5'-GCACCTGTGGGGAAGAAACT-3'
Jβ2.6:5'-TGAGAGCTGTCTCCTACTATCGATT-3'
    ↓
PCR産物を1.6% agaroseでTris-acetate-EDTA bufferでゲル電気泳動し、ethidium bromideで染色
    ↓
STAP 細胞からのPCRバンドをシーケンスして解析
(D)J 再編成により、再編成したゲノム断片を同定

はっきり言ってお手上げである。なんのこっちゃ、である。まったく理解できない。そもそも、これがキメラマウスの細胞にTCR再構成が認められるか否か確認する実験であるのかどうかすら判らない。

そこで学とみ子さんにお願いである。この実験は何のために行われ、その結果、何が判ったのかを、狸にも理解できるように解説していただけないだろうか。

6/6追記

調査報告 STAP細胞 不正の深層』速記メモから「Nスぺ」でTCR再構成についてどのように語られていたかを確認した。

マウスから細胞を取り出し、弱酸性の液体に浸すとキメラマウスができると言っているが、キメラマウスが最初の細胞からとりだしたものかの証明をしないといけない。
TCRという細胞が追跡の鍵となる。TCR再構成が見つかれば証拠になるが、それは調べた、という1文しか論文にない。証明が十分できていなかったのではないか。
科学者として立ち止まるポイントじゃなかったか?

一方で学とみ子さんは次のように言う

NHKスペシャルでは、キメラマウスにもTCR痕跡が見られなければいけないとの説明がなされました。TCR痕跡がなければ、それはSTAPが偽物を意味するという説明でした。

「Nスペ」では「TCR痕跡がなければ、それはSTAPが偽物を意味するという説明」はなされていない。ただ「TCR再構成が見つかれば証拠になる」と言っているだけである。