シュレディンガーの狸

このブログがなぜ"シュレディンガーの狸"と名付けられたのか、それは誰も知らない。

狸 : 超弩級の無断転載

またまたryobuさんからコメントをいただきました。

2.「STAP細胞を胚に注入する」=「特殊な手技」
と貴方は断定されましたね。

 いえ、断定はしていません。最終的には「特殊な手技」という言葉を使った小保方さんと最初にSTAP幹細胞を樹立した若山さんに尋ねないと断定はできません。ただ妄想ではなく、合理性のある推定であることをご理解いただくために専門家である感想さんの意見を以下に無断転載させていただきます。

前にも説明したことがありますが、以下のように考えると、非常に素直に納得できます。端的にいえば、「キメラマウスの作製時にSTAP細胞をインジェクションした胚盤胞を、そのままES細胞樹立用の培地に移し培養した」ということです。若山氏に確認しないと確定しませんが、この解釈で間違いないと思っています。なぜなら、科学的に非常に素直な発想であり、また、若山氏がやっていた実験内容と合致すると思うからです。

以下説明

受精後の発生が進み、胚盤胞という時期になると、胚の内部に細胞が集まる領域ができます。この部分の細胞は、将来、胚の体を作る細胞に分化することが知られ、内部細胞塊と呼ばれます。胚のそれ以外の部分は、胚の体以外の、胎盤などに分化します。内部細胞塊の細胞を株化(細胞を外部に取り出し、増やし続けるようにすること)したものが、ES細胞です。ES細胞は、内部細胞の持つ性質、つまり、体に分化する性質(多能性)を持ちます。胚盤胞を特殊な培養液に入れると、内部細胞塊の細胞が増えてきて、ES細胞を作製(樹立)できます。

キメラマウスを作製するときには、胚盤胞にドナーの細胞を注入します。注入された細胞は内部細胞塊に混ざり(キメラになって)、もしドナーの細胞に、内部細胞塊と同様の多能性があるなら、もとからの内部細胞塊の細胞と同じように振る舞い、体を作る細胞に分化します。混ざり方がランダムなので、体のいろいろな部分に寄与することになります。

さて、ここで、STAP細胞を用いてキメラマウスを作製しようとしている人がいるとします。もし、STAP細胞が多能性を持つなら、キメラマウスができるはずです(これがそもそも実験で検証したいことです)。もしそうなら、STAP細胞は、胚盤胞に注入されたあと、一旦、内部細胞塊と同じような状態になったはずです。ここで、ES細胞の樹立方法を思い出して下さい。もし、キメラマウスを作製する人に、ES細胞樹立の知識があったら、どう考えるでしょうか?

STAP細胞が内部細胞と同じような性質になった状態で、そのまま、ES細胞の樹立に進むとどうでしょうか? 内部細胞塊がES細胞となると同じように、STAP細胞もES細胞のような株化がされないでしょうか? この場合、できた細胞とES細胞の違うの点は、由来です。ES細胞は胚由来ですが、STAP細胞は、いったん分化した体細胞(これが重要)がSTAPによって初期化された細胞に由来します。胚に由来する幹細胞株をEmbryonic Stem Cellと呼ぶなら、後者は、STAP幹細胞(STAP Stem Cell)と呼べるでしょう。胚盤胞を、内部細胞塊的性質を生む一種の容器のように考えるわけです。この内部に入れると、周囲の細胞からのシグナルなどで、入れたSTAP細胞が自分も内部細胞塊の一部だと勘違いしないかというアイデアです。

なぜ、キメラマウスの作製と同時にSTAP幹細胞が樹立されたのか? それは、こう考えると理解できます。キメラマウスを作製するときは、STAP細胞を多くの胚盤胞に注入し、その後、それらを仮親に入れ発生させます。インジェクションをしたが、余った胚盤胞ができるでしょう。この「STAP細胞をインジェクションをしたが余ったキメラ胚盤胞」を、ES細胞樹立用の培地に移せば、それがSTAP幹細胞の樹立法になります。Cumulina氏の書き込みにあるとおり、「STAP細胞を注入したキメラ胚を使って初めて樹立に成功した」です。

この方法でSTAP幹細胞を樹立した場合には、もとの内部細胞塊に由来する細胞と区別するためのマーカーがドナーのSTAP細胞に必要です。例えば、GFPです。ES細胞の樹立と同じようにして、キメラ胚盤胞からマーカーを持つ細胞が増えてこれば、樹立に成功したことが分かります。

「あの日」第4章(からの引用=赤字)
「その上、残りの細胞をES細胞樹立用の培養液で培養したらES細胞様に増えだしたと報告された。毎日、スフェア細胞を培養し観察していた私は、細胞が増える気配すら感じたことがなかったので大変驚いた。「特殊な手技を使って作製しているから、僕がいなければなかなか再現がとれないよ。世界はなかなか追いついてこられないはず」と若山先生は笑顔で話していた。」

ここで言う、「特殊な手技」は、上の、キメラマウスを作製するときのインジェクションのことを意味していると思われます。手技というのは、手を使った作業のことを指すので、若山氏が言う手技は、マニピュレーターを用いた作業のことだと考えるのが普通だからです。それ以外の単なる培養なら、「手技」とは呼ばないはずです。若山氏は、当初は、一旦キメラ胚盤胞にすることが、STAP幹細胞の樹立の秘訣だと考えていたので、上のように発言したのでしょう。しかし、後にそのようなことは必要無く、そのままSTAP細胞をES細胞樹立用の培地に移せばよいだけだと分かったというのは、Cumulina氏の書き込みの通りです。「あの日」のこの部分は一部分を取り出した記述であり、ここだけ読むと意味不明で、若山氏が何かSTAP幹細胞樹立時によからぬことをしているかのような印象を与える効果を持つでしょう。

ここから先は、さらに推測の程度が上がりますので注意。

「あの日」の読者が、おそらく以下のような記述を読んでO氏はSTAP幹細胞の樹立方法を教えてもらえなかったと言って若山氏を非難しているようですが、変な話です。方法といっても、STAP細胞塊をES細胞用の培地に移して培養するだけなのですから。教えるほどのものでもないです。

「あの日」第4章より(からの引用=赤字)
「増殖が可能になったと報告された細胞培養に関しても、どうしても自分で確認がしたく、「培養を見せてください、手伝わせてください」と申し出たが、若山先生は「楽しいから」とおっしゃり一人で培養を続け、増えた状態になって初めて細胞を見せてくれた。若山先生によると「ES細胞の樹立も研究者の腕が重要だから、自分で行いたい」とのことだった。」

私の推測ですが、これは、まだSTAP幹細胞の樹立に胚盤胞インジェクションが必要だった時期の若山氏の発言を、ゆがめたり、一部切り出しているのではないでしょうか。ちょうど、早稲田大学がO氏のコメントに反論したときに明らかになったような状況です。
https://www.bengo4.com/other/1146/1307/n_3893/

そう考えないと、STAP幹細胞の樹立は、教えたり、手伝うほどの作業でないので、つじつまが合わないからです。

「あの日」は、若山氏の一部の発言を曖昧に切り出したりしている可能性が高く(例えば「特殊な手技」という言葉を複数の箇所で出していますが、それが何に関するどういう種類の手技なのかを具体的に書いていません)、信用に値しないテキストだと思います。他の事実を念頭に読めば読むほど(特に後半部に)変な、被害妄想的記述が見つかります。具体性に欠けた記述が出た来たとき要注意です。「あの日」に沿って議論しても間違った方向に導かれる可能性が高く、私は、おすすめしません。友人のみなさんへの助言です。

因果関係:直接的か間接的か? : 一研究者・教育者の意見 (記事コメント - 37)

どうですか。専門家の感想さんが、「特殊な手技」が「STAP細胞を胚に注入する」ことであることは「若山氏に確認しないと確定しませんが」という保留付きながら「間違いないと思っています」と仰っています。

また「『あの日』に沿って議論しても間違った方向に導かれる可能性が高く、私は、おすすめしません」とも仰っています。ま、STAP人は当然こういう忠告に聞く耳を持っていないでしょうが。だからSTAP人はさまようしかないのです。

最後に感想さんに無断転載(しかも一部、手を入れました)したことをお詫び申し上げます。

【追記】『あの日』の読後感として私が最も共感した文章はこれでした。

delete-all.hatenablog.com

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