シュレディンガーの狸

このブログがなぜ"シュレディンガーの狸"と名付けられたのか、それは誰も知らない。

帰ってきた「消えた1ドルの謎」

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約2年ほど前の記事で問題にしたことを、再び問題にする。

3人の男がホテルに入りました。ホテルの主人が、一晩30ドルの部屋が空いていると言った ので、3人は10ドルずつ払って一晩泊まりました。次の朝、ホテルの主人は部屋代が本当は25ドルだったことに気がついて、余計にもらった分を返すようにと、ボーイに5ドルを手渡しました。ところがこのボーイは「5ドルでは3人で割り切れない」と考え、ちゃっかり2ドルを自分のふところに納め、3人に1ドルずつ返しました。さて、整理してみましょう。3人の男は結局部屋代を9ドルずつ出したことになり、計27ドル。それにボーイのくすねた2ドルを足すと29ドル。 
最初に3人が支払った額は30ドル。はてさて、1ドルはどこに消えたのでしょう。

まず上記の文章にある数字を代数で置き換えてみる。  

N人の男がホテルに入りました。ホテルの主人が、一晩Naドルの部屋が空いていると言った ので、N人はaドルずつ払って一晩泊まりました。次の朝、ホテルの主人は部屋代が本当はBドルだったことに気がついて、余計にもらった分を返すようにと、ボーイにDドルを手渡しました。

      D=Na-B

ところがこのボーイは、「DドルではN人で割り切れない」と考え、ちゃっかりXドルを自分のふところに納め、N人にcドルずつ返しました。

      X=D-Nc=Na-B-Nc=N(a-c)-B

※ボーイが横領したのは3人の男が結果的に負担することになる部屋代と正しい部屋代の差額である

さて、整理してみましょう。N人の男は結局部屋代を(a-c)ドルずつ出したことになり、計N(a-c)ドル。それにボーイのくすねたXドルを足すと

      A=N(a-c)+X=2N(a-c)-B

AはN人の男が結果的に負担することになった部屋代N(a-c)ドルを倍にした金額と正しい部屋代Bドルの差額である。このような数字には何の意味もない。つまり男たちが結果的に負担することになった部屋代N(a-c)ドルにボーイのくすねたXドルを足すことには何の意味もない。したがってその数字と最初に支払った部屋代Naとの差を論じることも無意義である。しかし、男たちが結果的に負担することになった部屋代からボーイのくすねたXドルを引くことにには意味がある。その引き算の結果は正しい部屋代Bである。このことは当たり前のこと、すなわち男たちが不当な部屋代を負担することになった原因がボーイの横領にあることを示している

「消えた1ドルの謎」は何の意味もない計算に意味があると思わせることから生まれる。そのために、問題を無意味に複雑化させている。すなわち、N=3と設定している。N=1でも1ドルが「消える」ことには変わりないのに。この無意味な複雑化の効果は次の文章に現れる。「このボーイは(中略)3人に1ドルずつ返しました。さて、整理してみましょう。3人の男は結局部屋代を9ドルずつ出したことになり、計27ドル」(ちなみに消えるのも1ドルである)。N=1だと話は単純になる。すなわち「このボーイは男に3ドル返しました。男は結局部屋代を27ドル出したことになります」。このように話を単純化すると、30ドルが27ドルになった原因が、ボーイが3ドル返金したことにあることがあからさまとなる。そのことに気付けば、27ドルが、もはや最初に支払った代金30ドルより3ドル少ないことは当然であり、両者(30ドルと27ドル)の関係は問題にする必要がないことがわかる。問題にすべきは27ドルと正しい部屋代25ドルの関係、すなわち前者が後者よりも2ドル多いことである。その原因は言うまでもなく、ボーイによる2ドルの横領である。

27ドルからボーイのくすねた2ドルを引くと25ドル、 最初に支払った額は30ドル。はてさて、5ドルはどこに消えたのでしょう。もちろんどこにも消えていない。3ドルは宿泊客のふところに戻ってきた。2ドルはボーイのふところに潜んでいる。そして謎は消滅する。