シュレディンガーの狸

このブログがなぜ"シュレディンガーの狸"と名付けられたのか、それは誰も知らない。

相澤真一さんの「Results of an attempt to reproduce the STAP phenomenon」を一行も読んでないから、冷めて語る。

相澤真一さんが小保方さんによる検証実験の結果について、論文を発表し、その論文がSTAP界隈を賑わしているようだ。

というのも小保方さんは、単に論文のプロトコル通りにSTAP細胞塊を作る実験を厳しい監督下で1615回行っただけであり、その細胞塊がどう扱われたか小保方さんは知らないことについて、言及がない。

【ryobu-0123】Stap事件―小保方氏の研究パートは有益な事実�E Irene de Lazaro氏とAustin Smith氏の査読コメントに対する、相澤氏の回答: 白鳥は鳥にあらず(強調は引用者、以下同様)

小保方さんは「STAP細胞塊を作る実験を厳しい監督下で1615回行った」ことなど、ありませんよ、白鳥さん。「1,615個の細胞塊を宿主胚に移植し」たのは清成寛さんです。

giveme5.hateblo.jp

さらに白鳥さんは次のように述べている。

当然キメラ実験の際、前提となる小保方細胞塊について多能性があるかどうかをまるで試験せず、単に相澤氏は実験を続けた結果を発表しただけと言う単純な話になると思う。ここからそうすると実験計画に問題はなかったのかという議論に発展するかもしれない。

白鳥さんの「多能性があるかどうかをまるで試験」しない「実験計画に問題はなかったのか」という着眼点は、いいね、です。ただし、この実験計画に問題あり、といったのは研究不正再発防止のための提言書である。

さらに、STAP 現象及び STAP 細胞については、理研は、事実の有無を自ら社会に明ら かにする社会的責任を負っているところ、理研CDB の相澤氏、丹羽氏によって行われてい る「検証実験」は、キメラ胚形成能を評価法とし、テラトーマ形成能を評価法としていな いため、再現実験として疑義がもたれている。 そもそも再現実験の目的は、「STAP 現象は有り、小保方チームはこれを完成していた」 のか、それとも研究成果の捏造であるのか、を明らかにすることにある。しかるに理研が 現在行っている「検証実験」は、①2つの論文ないし2014 年3 月5 日に理研により発表さ れた範囲内のプロトコルによることが明らかではない②テラトーマ形成能を評価法としていないため、「検証実験」の結果を以て不正の有無および不正を犯した人物が明確にできな い。すなわち、小保方氏が STAP 細胞の作製に成功したのかが明らかにできない等の問題 があり、「STAP 現象は有り、小保方チームはこれを完成していた」のか否か、を明らかに する再現実験としては不備があると指摘されている。

p16

つまり「研究不正再発防止のための改革委員会」は検証実験の目的のひとつとして、「不正を犯した人物」を明確にすることを挙げているのだ。ただし「改革委員会」は、相澤さんが言うような、厳しい監督下で小保方さんに実験させるようには提言していない(相澤さんは記者会見の最後で、とってつけたように小保方さんを「犯罪者」のように扱ったことを謝罪していた)。

小保方氏自身により、かつ2通の論文ないし 2014年3月5日に理研により発表され た範囲内での、STAP 現象誘導プロトコルによる、STAP 現象の再現実験を行うこと。小保方氏自身による再現実験に際しては、胚性幹細胞研究あるいは iPS 研究に熟練した研究者が監視役として同席するとともに、同一空間内で平行して小保方氏が実施するプロトコルに沿って再現実験を行うこと。再現実験はテラトーマ形成能を評価法とすること。

p22

既存の多能性細胞に熟練した研究者を監視役(以下「X」という)として同席させ、「同一空間内で平行して小保方氏が実施するプロトコルに沿って再現実験を行うこと」を提言しているだけである。つまりXの役割は小保方さんを監視するだけではなく、小保方さんと同じ手順で、同時並行して実験することにある。その結果として考えられるのは、①小保方とXの両方が成功する、②両方が失敗する、③小保方さんだけが成功する(その逆は考えないことにする)である。①の場合は、万歳である(ただしテラトーマの作成に成功しても、STAP細胞の多能性が完全に立証されたことにはならない)。丹羽さんチームがキメラ実験に成功すれば万々歳だ。③の場合、両者の手順を再確認し、なぜ、そうなったのかを検証することができる。そのとき小保方さんが「魔術を使った」ことが暴露されるかもしれない。

しかし実際の検証実験では、小保方さんに対する監視体制が厳重となっただけだった。

私に実際に課された検証実験の条件は、記者会見で発表された内容よりずっと厳しいものだった。「魔術を使うことを防ぐために」監視カメラや立会人による24時間の監視に加え、私の行動のすべては立会人によって記録された。実験室に持ち込む物、私が手にする物のすべては記録され、ほんの少し手を動かすことも、物を持ち直すことも自由にできなくなった。立会人が一緒にいようとも、実験室に一歩でも先に入ることは許されなかった。

『あの日』p217

要するに立会人は小保方さんの監視するだけの存在だった(多能性細胞に熟練した研究者ではなかった)。「提言書」にあるように「小保方氏が実施するプロトコルに沿って再現実験を行うこと」はなかった。

小保方さんの実験の条件を「改革委員会」の提言に従わず、このように変更したのは、なぜか。その理由は「不正を犯した人物」を明確にすることを望まなかったからとしか考えられない。もちろん小保方さんがテラトーマの作成に失敗したからと言って、直ちに彼女が研究成果を捏造したとは断定できない。しかし、同時に「予想をはるかに超えた制約の中での作業となり、細かな条件を検討できなかった事などが悔やまれますが、与えられた環境の中では魂の限界まで取り組み、今はただ疲れ切り、この ような結果に留まってしまったことに大変困惑しております」(小保方研究員コメント)という言い訳もできなかったはずである。

もし小保方さんがテラトーマの作成に失敗したとして、彼女は、なお次のように言うことができただろうか。

Notwithstanding, my part of STAP study, and STAP phenomenon, was surely confirmed in the verification experiment.

Past background of STAP | STAP HOPE PAGE STAP verification experiment in RIKEN CDB

小保方さんにとって、テラトーマ作成を免除されたことは幸いであり、そして厳重な監視体制下に置かれたことは決して不幸ではなかった、と私は思う。