シュレディンガーの狸

このブログがなぜ"シュレディンガーの狸"と名付けられたのか、それは誰も知らない。

あぶない刑事【須田編】

犯人はやはり小保方晴子でした」そう言い切った須田に、上田は鬼のような形相で食って掛かった。「あんた、きちんとした根拠があって言っているんでしょうね」
須田は憐れむように上田に言った。「警部に向かって『あんた』はないでしょう、上田巡査」
そして署長に向き直って「あのダイイングメッセージの謎が解けました」と言った。
「あの謎は脳みその代わりに八丁味噌が入っている頭では絶対に解けません」
「ずいぶんと自信があるみたいだな。では、その謎解きを聞かせてもらおうか」
「はい、署長。まず『マダラノヒモノ』をローマ字書きにします」そう言って須田は白板に「Madaranohimono」と書いた。
「次にこの記述を三つに分割します」そう言って、その下に

Madar / Anohi / Mono

と書いた。

「最初のMadarは英語のMurderに相当します。つまり『殺人』を意味します。次のAnohiは言うまでもなく小保方の手記『あの日』です」
「おい、ちょっと待て。『あの日』が出版されたのは、事件発生から、ずいぶんたってからのことだぞ。どうして被害者は『あの日』のことを知っていたんだ?」
「そこです。被害者は講談社の社員で『あの日』の出版に深く関わっていました」
それを聞いて、署長は溜息をついた。だが、須田はそれに気づかず、謎解きを続ける。
「そして、被害者は小保方の手記が『あの日』というタイトルで出版されることを知っていました。ただ、そのことは講談社の内部で噂として広まっていたので、そのことを知っているのは自分だけではないことも、被害者は考慮していました」
須田は自信満々に語り続ける。だが署長はもはや聞いていない。
「そこで、最後のMonoが意味を持つのです。モノクロ、モノトーン、モノレール等に共通するMonoには『ひとつ』という意味があります。被害者は、その言葉に、手記が『あの日』というタイトルで出版されることを確実に知っている自分以外の、ただひとりの人間という意味を込めたのです。そしてその人間とは、『あの日』の著者、小保方晴子以外にいません!!」
そういってMadar/Anohi/Monoと書かれた白板を平手でバンと叩き、ドヤ顔で署長を睨んだ。だが署長は須田に背を向けて窓の外を眺めていた。
殺人を犯したのは『あの日』が出版されることを知っている、ただひとりの人間、小保方晴子である、これが『マダラノヒモノ』というメッセージに込められた意味なのです。以上です。ご清聴ありがとうございました」
須田がそう言い終わると、署長は彼女に顔を近づけ、口を大きく開けた。
「署長、何してるんですか?」
「開いた口が塞がらないという今の私の心情を表現してるんだよ、須田君。つかぬことを聞くが、君は被害者の氏名を知っているか?」
「いえ、知りません」
「じゃ、勤務先は?」
講談社です」
「違う! 全然違う!!」と怒りを爆発させる署長を上田がなだめる。
「署長、落ち着いてください」そう言った後、須田に向き直り、「警部殿は被害者の身元も知らないで、捜査していたんですか。あきれてものも言えませんわ。それとも警部殿は小保方さんに無実の罪を着せるために捜査しておられるのかしら」と自分ことを棚に上げて、嘲笑う。この挑発に乗って須田は上田につかみかかり言う。
「うるせぇ、おまえの推理は何だ。『マダラノヒモノ』から『まだらの紐』を思いついただけだろ。そんなべタな発想、今時、小学生でもせんわ!」

そう罵られた上田は本性を現し、須田を罵倒する。

「おまえこそ、MadarがMurderだなんて、こじつけもいいところだ。そんな無理筋が通ると思っているおまえの頭の中身は蟹味噌か! 」さらに上田は腹に据えかねていることを須田にぶつける。

「だいたい、おまえ、小保方さんが犯人だってマスコミにリークしまくってんだろ。そのおかげで無実の小保方さんがネットで叩かれまくってるんだぞ。その責任をどうとるつもりだ」だが、須田も負けてはいない。

「おまえだって犯人は若山先生だってリークしまくってんじゃねえか。ただ、おまえの情報をもとに記事を書くのは、ビジネスなんとかという聞いたことのないメディアぐらいで、大手のマスコミは相手にしないけどな」

延々と罵倒合戦を繰り広げる上田と須田、あきれ果てて両者の仲裁に入る気にもなれない署長、そんなときである。ドアをノックする音がした。上田と須田は、お互いの胸ぐらをつかみあったまま、ドアの方に顔を向けると、そこにはひとりの女性が立っていた。その女性は言った。
事件は無事、解決しました

To Be Continued

 次回は「あぶない刑事【片瀬編】」をお送りします。