シュレディンガーの狸

このブログがなぜ"シュレディンガーの狸"と名付けられたのか、それは誰も知らない。

STAP論文、ノーベル賞受賞者はこう考える。

学とみ子さんのブログ記事「知識人たちに、TCR証明がSTAPの正当性証明の重要なキモでなると印象づけたのである。元T細胞がキメラになる難しさについては解説されなかった・・・。 」にある

笹井先生は、他の科学者たちの指摘のように、キメラのTCRに本当にこだわっていたのか?
笹井先生は、ごまかした論文の書き方をしたのであろうか?
について、私はそうは思わない。

について面白い文章を見つけたので、ここで紹介することにした。題して『STAP 論文問題私はこう考える』。この「私」とは今年、ノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑京都大学大学院医学研究科教授(この文章が書かれた当時の肩書)である。なお、この文章が発表されたのは2014年7月であり、STAP幹細胞やキメラなどがES細胞に由来すると結論付けられる前である。

STAP 細胞の定義は「刺激により普通の細胞が変換して生じた万能性細胞」ですから、体の中に極めて少数存在することが知られている万能性を持った細胞(幹細胞)が刺激処理で「選択的に増えた」のではないということが新発見かどうかのポイントです。

学とみ子さんは「この知識人をして、TCR証明がSTAPの正当性証明の重要なキモでなると印象づけたのである」というが、正確にはTCR再構成はSTAP細胞の「正当性証明」ではなく「新規性証明」なわけです。2010年に生体内にMUSE細胞が存在することが発見されていますから、これが「『選択的に増えた』のではない」ということを証明しないと新発見にはならない。

論文に記されたことが全て事実として読み、STAP 細胞が「選択」ではなくて「変換」で生じたということが科学的に証明されているかに注目しました。STAP(未分化)細胞に分化細胞に存在する特別な目印がそのまま見つかれば「変換」を証明することができます。通常細胞が分化状態を変えるときには、性質が変わりますから、その過程でも変化しない目印は非常に限られています。著者たちはT 細胞(免疫細胞)では細胞ごとに T 細胞受容体遺伝子の異なる組換えが起こることを利用し、この遺伝子組換えが STAP 細胞にそのまま保持されるかどうかを見る実験を行いました。この目印が STAP 細胞に残っていることを示せば、STAP 細胞が分化細胞由来であることが証明されます。更に、その STAP 細胞の万能性の最も確実な証拠は、STAP 細胞とそれから生まれたネズミの体の細胞が同じパターンの組換え遺伝子を持つという証明です。

本庶さんのような専門家であっても「STAP 細胞とそれから生まれたネズミの体の細胞が同じパターンの組換え遺伝子を持つ」か否かについて「正解は出せない難問である。なぜなら、誰も実験をしたことが無いからである」(学さんの説)。もしこの「学説」が正しいとして、だったら実験してみるしかないじゃないとなるのが、常識である。そして小保方さんらは実験してみた。

ところが、この論文の中のデータでは、刺激で生じた STAP 細胞を含む細胞集団の中 にT細胞受容体遺伝子が組換えを起こした (つまり分化した)T 細胞が混在していることしか示されていません。STAP 細胞から再分化させた奇形腫やネズミの細胞中の T 細胞受容体遺伝子の解析データが示されておりません。不思議なことに方法を記載した部分にはこの実験を行ったと書いてありますがそのデータがありません。このような不完全なデータと論理構成の不備は論文を読めば、すぐに判断できます。簡単に言いますと、私は物理的刺激や酸にさらすことによって分化した細胞が STAP 細胞に変換し、それからネズミが生じたという科学的根拠がこの論文中には提示されていないと考えました。

実験してみたもののキメラからは、TCR再構成は確認されなかった。だからSTAP論文には、その実験データは記載されていない。でもなぜか「不思議なことに方法を記載した部分にはこの実験を行ったと書いてあります」。もし論文著者らが「学説」を採用していたなら、この実験自体、無意義なわけで「この実験を行った」などとは書かないはずである。ではなぜ書いたのか?少なくとも論文著者が「キメラのTCRに本当にこだわっていた」ことは確かである。ただし本庶さんや学さんは免疫学の専門家という立場からTCRにこだわっているのに対して、論文著者はまったく違った意図から、それにこだわっていたと私は考える。その意図とは「読者を誤解させる」ことである。

実は、大変驚いたことに再現性に疑問が浮上した後に(3 月 5 日)小保方、笹井、丹羽によるプロトコール即ち STAP 細胞を作成するための詳細な実験手技を書いたものが、ネイチャー・プロトコール・エクスチェンジというネット誌に発表されました。これには、STAP 細胞として最終的に取れた細胞には T 細胞受容体の再構成が見られなかったと明確に書いてあります。もしこの情報を論文の発表(1月30日)の段階で知っていたとすると、ネイチャー論文の書き方は極めて意図的に読者を誤解させる書き方です。この論文の論理構成は該博な知識を駆使して STAP 細胞が分化した細胞から変換によって生じ「すでにあった幹細胞の選択ではない」ということを強く主張しております。しかし、その根本のデータが全く逆であるとプロトコールでは述べており、捏造の疑いが高いと思います。

もちろん論文著者はSTAP幹細胞にTCR再構成がないことを論文発表前から知っていた。だから本庶さんの、論文著者は「極めて意図的に読者を誤解させる書き方」をしたという考えは「知っていたとすると」という前提無しで成立する。一方で学さんは「ごまかした論文の書き方」とは考えない。僭越ながら私は本庶さんと同じ考えである。最後に私の考えを再掲して今回の記事の締めくくりとする。

Nature論文には「STAP細胞についてTCR再構成について調べた結果、再構成は見られた」と書かれている。 Nature の査読者は同じ論文にそのSTAP細胞から作られた「キメラマウスの細胞についてもTCR再構成について調べた」と書いてあるので、てっきり「キメラマウスでも再構成が見られた」と勘違いしたのではないか。Nature の査読者にそう勘違いさせるには「キメラマウスの細胞についてTCR再構成について調べた」と書くことが必要だ、笹井さんはそう思ったのである

ゲノムが語る生命像 (ブルーバックス)

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